がんばれコンサルタント！ 第685号：「何のために経営をするのか」── 恩師から学んだ人生と経営の哲学

「ゴトウさん、独立するときに最初に何を考えましたか？」── ある案件の後に、親しいコンサルタント仲間の方々と一緒に、たのしく一杯酌み交わしていたときに出てきた話題です。

独立を考えるとき、誰でも色々なことを考えるはずです。希望と同時に不安も押し寄せ、「本当にやっていけるのだろうか…」と、眠れない夜があったりするはずです。

特に、組織の後ろ盾がなくなることを想像すれば、恐怖感を持たないほうがどうかしているかもしれません。もしくは、考えないようにしているだけかも…。

では、「そんな怖い思いまでして、なぜ独立したのですか？」と、すでに独立した人に訊けばどうでしょうか──

五藤が最初に社会人となって入った会社の、牟田學（むたがく）代表は、経営コンサルタントということもあって、よく「人生は一回きりなんだから、一生けん命にがんばりなさい」と、社員にもお客さんの社長さんにも語っていました。

正直、若い頃には単に「社員は仕事をがんばりなさい」くらいの意味に聞こえていましたが、数多くの薫陶を受けるなかで、その言葉の奥にある人生哲学を徐々に理解できるように…。

あるとき、代表は社員に向けてこう言いました。「いいかい、世の中の９５パーセントのことはお金で解決できる。お金があるというのは選択肢が増えることだ。ただし、残りの５パーセントはお金ではどうにもならない、ということも覚えておきなさい」と。

この言葉に初めて触れたときの衝撃は今も忘れていません。人生という現場を真正面から本音で語る姿に、美しくも泥臭さを感じ、生きる実感のこもった言葉だと思ったからです。

さらに、「他人の人生ではなく、自分の人生を歩きなさい」「世の中は好きか嫌いかで決まる」「打つ手は無限」「冒険しなければ飛躍はない」…など、数々の熱い言葉は、まさに魂の叫びのようになって、多くの経営者に向けて放たれていました。

実際、５０もの事業に挑戦するもうまくいかず、それでもあきらめずにやがて巨大な寿司チェーンを築かれた社長さんがいます。あきらめず挑み続けたその姿は、まさに牟田代表の教えの体現と言えるものです。

ひるがえって、「なぜ独立？」という問いに立ち返るとき、登山家に「なぜ山に登るのか」と尋ねるのに等しいことが分かります。

「そこに山があるから」の返答のように、独立して商売を始めた人は「そこに自分の人生があるから」のごとく答えるに違いありません。他人の敷いたレールではなく、悔いのない一回きりの自分の人生を歩みたい…と。

その問いには、「成功と失敗」が常に関わっているように見えます。成功すればいいけれど、失敗したらどうなる…。冒頭の不安心理のように。

しかし現実は大きく違うことが分かります。何回失敗してもあきらめない経営者が数多くいます。成功と失敗は表裏一体に見えますが、実際の成功の対義語は「何もしない」だからです。

挑戦しない限り、成功も失敗も存在しません。そう教えてくれていたのが、恩師、牟田學師でした。だからこそ、「打つ手は無限」「冒険しなければ飛躍はない」…という言葉が創業社長の心を強く打つのでしょう。

世の中にこれほど艶やかな経営の姿があるのかと示してくれた師の教え、生き方は、多くの経営者にとって永遠の道標となっていると思います。そして当社も強くそう想っています。

だからこそ、ただただ失敗を恐れて、避けて、危なそうな道を遠ざながら他人のつくった道を歩く先に何があるのか…。転んでも血だらけになっても、滑り落ちても何度でも這い上がってよじ登る…。どちらを選ぶのか。

自分の描く道を拓く人生と経営は、かくも美しく楽しく、そして面白いということを、コンサルタント自らも実践してほしいと心から願っています。

その精神は、必ずや関わる経営者に伝播し、艶やかな経営、そして豊かで楽しく多くの人を幸せにするビジネスになっていくと信じてやみません。

そのことを教えていただいた牟田學師に哀悼の意を表し、この誇り高き道以外に歩まないことを誓い、当コラムを、恩師に捧げたいと思います。ご冥福をお祈りいたします。